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6分44秒への、 

「今度こそ本当に大声で泣き出した。子どもみたいに、ワンワンと。声にならない声で叫んだ。何を呟いているのかよくわからない。でも言いたいことはわかる。俺の始末したロボットには名前がなかった。それが悔しいんでしょう? 彼の名前を呼びたいのだ。でもできない。偲べない」(『V.T.R.』)


悲しい。

なんで電車の中なんだろうと思った。泣きたいのに泣けなかった。傍から見たときに、たぶんここにいる誰も、私が俯いている原因が6年前に壊れたmp3プレイヤーだなんて考えない。それがどうしようもなく寂しくて悔しかった。だって私は名前をつけなかった。固有名詞すら与えなかった。

壊れるなんて夢にも思わなかった。いつも傍にいたのだ。親が死んでから、何度も、何度も。ずっと肌身離さなかった。どこへ行くときも一緒だった。どんなに寂しくても、苦しくても、悲しくても、ポケットに手をすべらせたら、冷んやりと硬質な彼がいてくれた。手のひらに包みこんだら何も怖くなかった。空を見上げたらどこへでも行ける気がした。耳元から流れてくる音楽があたたかかったから。

だから「偲べない」日が来るなんて想像もしなかった。それが、ある日突然息絶えてしまった。なんの前触れもなく、ふっつりと。ずっと元気だったのに。突然、電源が入らなくなってしまった。

予兆はあった。なのに気づかなかった。気づいてあげられなかった。私がピアノを弾いている横で、録音時間が6分44秒で切れていた。最後まで録れていなかった。そんなのはじめてだった。その曲の抽出を最後に死んでしまった。

新しい子を迎えても、そのとき録った曲を登録しようとは思えなかった。どうしても。なんだか浮気をしているような気持ち悪さがあった。だからずっとPCだけで聞いていた。拙い演奏も、ヒスノイズも、まったく修正する気になれなかった。

6年経った。

6年前に許せなかった友達が、6年前の曲をプレイヤーに入れて、たぶん6年間、持ち歩いていてくれたことを知った。それがきっかけかはわからないけど、今日、6年も経った今日、なんだか虫が知らせたみたいに、そうだ、伐(はつ)で鳴らせてみようと思った。6年間、まったくいじっていなかった古い音源を移して、電車に乗って、プレイヤーをオンにした。

6年間、埋もれていた音が、あった。

PCでは聞こえなかった。聞こえるはずもなかった。音は圧縮されていた。他でもない「mp3」プレイヤー同士だから再現できる精度だったのかもしれない。密閉イヤホンを通してはじめて気づいた。ピアノの譜面台に置いたから、鍵盤を叩くたびに揺れる音。小さな体で、人の指が生み出す小刻みな振動だってしんどかったかもしれない。釘が軋むような音。親が死んでから、一度も調律していなかったピアノの、狂いかけた音。誰も帰ってこない居間のざらついた空気。

あのとき、彼がいなかったら、私は「ひとり」で弾いていた。

6年前に許せなかった友達を、喜ばせたいと願った。彼に録音機能があると知ったとき、知ったから、ああ、これで許せるかもしれないと思った。他に、繋がり方がわからなかった。憎しみ以外の、何にしがみつけばいいのかと途方に暮れた。それでも、また笑顔を見たいと望んだ。悔しいけど、「あなたの曲が好きだ」と言ってもらえたことが、どうしようもなく嬉しかった。

だから、指が迷っている間は、ずっと待ってくれていたのだ。演奏が夜明けに向かうまで、耐えてくれたのだ。もしかしたら、もう大丈夫、って安心してくれたのかもしれない。6分44秒めに。そのことに私が気づくのに、今度は6年もかかってしまった。ごめん、酷いよね。とんだ待ちぼうけだよね。私は、君が死んだと思っていた。君は片時だって私の傍を離れていなかったのに。ちゃんと、音のデータを残してくれていたのに。ずっと声に耳を塞いでいた。本当にごめんね。私は君の名前すら呼べないのに。

君が託してくれたおかげで、4月には、一緒に桜を見にいくよ。
ちゃんと許せたよ。
私、伐と頑張るよ。

ありがとう。

2010年3月27日、6分44秒への述懐。

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